3番目は独特の距離感、 | |
“リーダー”二人の後姿を一番に見つけた太一の率直な感想は、「珍しいもの見たなあ」だった。 そもそも城島は後輩との接点が少ないうえ、自分から話しかけにいくタイプでもないので、後輩とのツーショットというのがまず珍しい。 しかも、城島と大野はぽつりぽつりとだがお互いに何やら話をして、くすくす笑ったりしている。 (ホント珍しい……。俺たち以外に、あの人があれだけくつろいでるのは) 本人に自覚があるのか知らないが、城島は基本的に人見知りなのだと太一は思っている。 柔らかな笑顔を浮かべて誰にでもそつなく対応するから、きっと周りからそんなふうに思われてはないだろうが、あれは人見知りを覆う仮面で、本当はかなり時間をかけなければ心を開かない人だ。 約15年も近くで過ごしていれば、城島のつくった笑顔とそうでない笑顔くらい見分けられる。 大野に向けている笑顔は、飾らない城島の優しい笑みだった。 それは相手が大野だから、というのもあるのかもしれない。 太一は大野を不思議な男だと思う。 自分を飾ろうとせず、いつもふんわりとした空気をまとっている。喋り方もおっとりしているせいか、こちらの気持ちまでいい意味で脱力させてしまうようなところがある。 けれどダンスに歌、そして最近注目されている芸術の才能はかなり非凡だ。また、松岡が大野の演技力を絶賛しているのも聞いたことがある。 ――それなのに、決して前に出ようとはせず、自分のペースで淡々と歩き続けている。 目立つのが苦手だ、というタイプはたまにいる。V6の岡田もそんな感じだ。(ちなみに彼らは同じ歳らしい、初めて知ったときはちょっと意外だった) TOKIOにそういうタイプはいないけれど、あえて一番近いのは、と考えてみると、城島になるのだろうか。 すごい才能を持っているくせに、バラエティーではいじられ役やオチに徹するあたりは、二人のグループ内での立ち位置の関係もあり、よく似ていると思う。 世間一般の目からみれば、二人ともおそらく“癒し系”なるものに分類されるのだろうし。 (まぁ、俺らTOKIOのメンバーは、リーダー見てても全然癒されないけど) 大人の男だと思うし、しっかり者ではあるけれど、何処か危なっかしいところもあって放っておけないと感じてしまうのだ。 「あれっ、太一くん?」 そのとき、不意に後ろから声をかけられて、太一はびくっとして振り返った。壁に寄り添って立ち、のぞき見しているような状態だ、傍から見ればちょっとした不審行動である。 後ろに立っていたのは、大野と同じグループ・嵐に所属する相葉だった。 「おはようございます! 何やって……」 「しッ! 静かにしろっ!」 ひそめ声で一喝した太一に、相葉はてのひらで口を覆う。そろそろと近づいてきて太一が見ていたものの正体を知り、ふわりと表情を緩めた。 「リーダーと城島くんだぁ。リーダー同士ですね!」 同じくひそめ声で言った相葉は、ふふふ、と嬉しそうに笑う。 「何かいいなぁ。あの二人見てると、ほんわかしますね〜」 ◆ ◆ 大野は決して社交的な性格ではなく、どちらかといえば閉じた独りの世界に籠る性質である。 熱中するものに対してはどんどん深くに潜っていくが、興味の向かないものには見向きもしない。 そんな性格ゆえか、大野はけっこう世間知らずなところが多かった。 下の兄弟がいる相葉にとって、そんな大野はときどき弟のように思えてしまう。 デビュー当時は、2つ年上の大野がとても大人に見えたのだけれど。 今では可愛いなぁと思うし、一緒にバカなことをやるのも楽しいけれど、二人きりだと何となく、自分がしっかりしてフォローしよう、と自然に考えるようになっている。 「え、お前、大野見てて癒される? 俺はリーダー見てても癒されないぜ、全然」 「えぇ〜何でですかぁ? 城島くん、いつもにこにこしてて優しそうじゃないですかー。俺はリーダー見てて癒されますよ。一番癒されてるのはたぶん松潤だと思いますけど」 松本は大野を評して、屋久杉みたい、マイナスイオンが出ていると言ったことがあるのだ。 何で、と問う太一にそう答えたら、「屋久杉って、そんな大層なもんじゃねぇだろ」とつっこみが入った。 「でも、リーダーからマイナスイオン出てるっていうのはね、ホントそんな感じなんですよ。松潤上手いこというなぁって思いましたもん」 相葉はどちらかというと、友達とはわいわいとにぎやかに過ごしたいタイプだが、大野の傍だったら何故か黙っている方が心地よいと感じる。 隣に座って、ちょっと肩を触れ合わせて、何もしゃべらないけれど心がぽかぽか温かくなる感じ。 それはデビューした頃から変わらない感覚だった。 「太一くんは、城島くんの傍にいてそんなこと感じたりしないですか?」 「しないなぁ、俺昔はリーダーのこと苦手だったし」 「あ……」 それはちらっと耳にしたことがあるような気がする。 相葉が言葉に困っているのを察したのだろう、太一は小さく笑みを浮かべる。 「昔のことだよ。それに、あの時期があったからこそ、俺はリーダーと今の関係を築けてると思うから、無駄なことじゃなかったと思ってるし」 そういえば、嵐は一度喧嘩を経験した方がいいと言った人があった。 そんなこと言われても喧嘩にならないんだけどなぁ、というのが相葉の感想だったのだけれど。 大野はすべてを受け容れてしまうような大らかさを持っているし、櫻井は昔こそかなり短気で有名だったがメンバーに対してそれが発揮されることはなかったし、二宮はそういう感情をさらっと受け流してしまうし、松本は他人よりも自分の悪い部分を探す性質だし、相葉はそもそも負の感情に対しあまり根に持たない。 けれど、真に理解を深め合うには、喧嘩して仲直りという行為がひとつの手段として有効だろうとは思う。 ただ、自分たちには当てはまらないだけで。 太一と城島が喧嘩をして仲直りをすることで距離を縮めたかどうかはわからないけれど、二人はひとつの壁を乗り越えて今の関係をつくり上げたのだ。 「参考までに……どうやって城島くんと仲良くなったんですか?」 「うーん、まぁ……一番大きかったのは、一緒に曲創ったことだろうなぁ」 「曲、ですか……」 「相葉は何か楽器やるんだっけ?」 「ハーモニカとギターをほんの少し」 「鍵盤教えてやろうか?」 「いやぁ、たぶん俺には向かないです、難しそう……。うちは翔ちゃんとニノがピアノ弾きますよ」 「あぁそうなんだ。そういえばあいつらとがっつりそんな話したことなかったなぁ……」 いつの間にか話が逸れていって太一が楽器について語り出し、二人は立ち話をすることになったのだった。 | |
2010.05.09 |
|
PREV TOP NEXT |