さっぱりと刈られた金髪、切れ長の眼に濃く長い睫毛、薄い笑みを形作る薄い唇―― その それに反して躰つきはよく鍛えられており、右手は腰に佩いた無骨で大振りな剣に軽くかけられている。 左手は、彼が座っている椅子の傍らにある小さなテーブルに置かれた、埃と蜘蛛の巣にまみれた砂時計の上。 「武人の これらの人形を買い求めたであろう館の主が富裕層の人間だと思っているトモヤにしてみれば、この武人の人形の綺麗な造作も納得できた。 富裕層の人間にとって、人形は愛玩動物のようなものなのだ。 せっかく高い金を払って創ってもらうのなら、美しく自分好みの容姿を持った人形を、と思うらしい。 それを連れて歩くのが一種のステイタスなのだという。トモヤには全く理解できない感覚だったが。 そういえばさっき見た2体の人形も整った容貌だったよなぁ、と思いながら視線を落としたトモヤは、ここでも一輪の深紅の薔薇を見つけた。 その人形が着ている上着の胸ポケットに差し入れられていたのだ。 蕾はほどけたものの充分に開ききっていないその佇まいは、何処か頑なさを感じさせた。 綺麗な顔立ちだが威圧感のある武人の人形から、トモヤが数歩下がったところで、視界の端に何かキラリと光るものがあった。 トモヤは振り返って、その光の源を探す。 「あのへんかな?」 ミシ、ミシ、と床を軋ませながら大股で歩き、トモヤがたどり着いたのは明かり取りのような、小さな曇り硝子の窓だった。 壁と同色でぱっと見わかりにくくしてあるが、そこには人一人が通れるくらいの細いドアがあり、曇り硝子の窓はそのドアについているものだった。 いやに狭苦しい物置のような部屋だな、と感じていたが、奥にもうひとつ部屋があるらしい。 トモヤは小さな窓を覗いてみる。 ぼんやりと白い霧に包まれたような視界の向こう、浮かび上がったのは人型。 こちらの武人の人形と同様、椅子に腰かけているようだ。 それも、やはり 楽士、剣舞者、武人……次はどんな人形なのかと期待に胸を膨らませたトモヤは、何の躊躇いもなく、鈍い金色のドアノブに手をかけようとした。 「いったぁ!?」 しかしドアノブに指先が触れた瞬間、バチッと電流のような痛みが走って、トモヤは思わず悲鳴を上げて飛び上がってしまった。 『――その扉に触れるでないッ』 ぐわん、と頭痛に襲われたかのごとく脳裏に声が響く。 トモヤはこめかみを押さえた。 「何だよ、この声っ……」 『わが トモヤははっとして後ろを振り返る。 この部屋に声を発しそうなモノは―― しかし武人の人形は、妙に整った笑顔を貼り付けたまま微動だにしていなかった。 そのとき―― トモヤには、ぐにゃっ、と床がいきなりゲル状になって自分の体が沈みこんでしまったように感じた。 しかし実際そんなことはなくて、平衡感覚を失ったトモヤはただ床にバタリと倒れ込む。 「ちくしょうっ、何なんだよー!」 苦し紛れに叫んでみても、体の自由は効かなかった。 『チッ……、それはこっちの台詞だよ……』 声の質はさきほどと全く同じなのに、口調がガラリと変わった。 いやに古めかしい話し方から、急にトモヤと同じようなかなり砕けたものになっている。 『珍しくシゲが気持ちよく眠れてたっていうのに。お前の所為で台無しだ』 その瞬間、トモヤが入室を阻まれた奥の部屋で、真っ白く眩い光が爆ぜた。 | |
2010.05.28 |
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