Nobody has to know his charm.



 今はバラエティ番組の収録中。
 俺は視界進行も半分兼ねているからだいたい全体を見渡していることが多いんだけど、どうしても、眼で追ってしまう人がいる。

 ――それは嵐のリーダーである、大野智。

 この番組ではだいたい、ニノとひっついてセットになって動いていることが多い。
 だけどニノが相葉ちゃんやら共演者の方につっこんだり構いに行ったりすると、ひとりぽつんとなって、ただほわほわっと笑っていたりする。
 これテレビ! あなた出演者! しかもゲスト迎える立場だからッ!! って思わずつっこみたくなるような。

 もう、何だろうな、あの人何であんなに染まらないんだろうって思う。
 一応俺たち五人の中では一番長く芸能界で過ごしていて、歌もダンスも、そして芸術の才能だって一番ずば抜けていて、その点では最も芸能界に相応しいはずなのに。
 いつまで経っても、いい意味で素朴さを失わずにそこに立っている。
 嵐というグループは、五人の仲の良さ、そしてそこらにいそうな普通さ、親しみやすさが人気の一つだ、と言われているようだけど、それはやっぱり智くんのもつ雰囲気が一因なんだろう。

 でもいい意味ばかりではなくて。
 たぶんお茶の間での智くんの印象っていうのは、「いつもぼーっとしていて眠そうで頼りなさそうなリーダーらしくない人」ってとこだと思う。
 全部本当のことだし、まぁ間違っちゃいないんだけどさ。
 やっぱりテレビ用として、本来よりオーバーに表現しているところがあるのは、俺たちメンバーから見れば一目瞭然で。
 けれどバラエティ番組でのその面だけが、強調されて視聴者に伝わってしまうことがある。
 大野智という人間の一面が、さもその一面でしか出来ていないように。
 それを考えると、俺は歯痒くて仕方なくなるのだ。
 彼の魅力はもっともっと他にあるのに――と。
 けれど歌もダンスも、本格的に観てもらうにはテレビという箱は小さすぎるし、彼の手から生み出される芸術作品も、生で見てなんぼのものだ。
 そういう意味では、彼の才能はテレビ向きではないのだと思う。
 彼が舞台やステージの上でどれだけ光り輝くことか――、テレビに映る大野智しか知らない人は、おそらく想像できないだろう。

 それでも、デビュー9年目にして初めて連続テレビドラマで難しい役どころを熱演してから、少しずつ、彼の本当の魅力に気づいてくれる人が増え始めている、と感じている。
 それは本当に嬉しい。これは正直な気持ちだ。
 俺が望んでいること――大野智の才能が世間に広く認められることへの第一歩。

 ……そのはず、なのに。
 心をよぎるのは、一抹の不安と、寂寞。
 彼の才能と魅力の大きさを、一番よく知っているからこそ、怖いのだ。

 彼が独りでどこかに飛んでいってしまいそうで。

 それならば、彼の魅力を誰も知らなくていい。
 俺たちだけが――もっと言うなら俺だけが、知っていればいいなんていう……醜い嫉妬。

 ああ、だけど。だけど。
 俺の耳がもごもごと不明瞭な智くんの声を聞き取ると、俺は必ずそれを拾ってしまうんだ。
 放っておいたら収録中しゃべらずに終わってしまう危険のある智くんに、パスを送るために。
 やっぱり、ひとりでも多くの人に、彼を知ってもらいたいから。

「で、大野さん、あなたも言いたいことあるんだよね?」

「……ん〜、おれはねぇ……」

 おっとりしたペースでしゃべりはじめた智くんの声に耳を傾ける俺の胸のなかでは、二つの相反する感情が、未だ渦を巻いたまま。


2010.04.09



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