乱闘の末、城島と太一から諦観と根負けという名の勝利を勝ち取った山口、松岡、長瀬。
 二人を着替えさせるから外に出てろと、嵐の5人はTOKIOの楽屋を追い出されてしまった。
 ――十数分は待っただろうか。
 櫻井がちらと腕時計に眼をやった。
「けっこう時間かかってるね……」
「そりゃあね〜、相手はTOKIO兄さんですから。何か仕込んでるんじゃないですか?」
 至極楽しそうな二宮が言った台詞に、思わず全員が心の中で「うわぁ有り得る……」と同意してしまったのは、もう仕方のないことだろう。
 そのとき楽屋のドアが開いて、笑顔の長瀬が顔を覗かせた。
「お待たせ〜、入っていいよ!」
 嵐の5人は、「失礼しまーす……」と言いながら再びTOKIOの楽屋へ足を踏み入れた。
 山口が、部屋を仕切るパーテーションのようなものの傍に立っている。その後ろに、着替えた城島と太一がいるようだった。
「あれ……松兄、どうしたの?」
 大野は、壁にひっつくようにしてしゃがみ込んでいる松岡に気づいて声をかける。
 が、当の本人が答える前に、長瀬の笑い声を含んだ声が飛んできた。
「だいじょぶだよ〜、松岡くんはリーダーの色気にあてられただけだから!」
「長瀬ッ、余計なこと言わなくていいッ!」
 “色気”という言葉に、二宮と相葉が反応する。
「茂くんかなり化けそうですもんね〜」
「うわーっ、楽しみ! 見たい見たい!」
「あとでな。リーダーたるもの、先に出ちゃ駄目だろ?」
 にっこりと微笑んだ山口は、パーテーションの裏を覗き込んだ。
「ってことで、太一、出番だぞ」
 しかし、返って来たのは不機嫌な返答である。
「…………いやだ」
「太一くん、出てきてくださいよ〜。せっかく似合ってるんですから〜」
 長瀬にぐいぐいと腕を引っ張られて、足取り重たい太一がパーテーションの後ろから出てきた。
 途端、嵐勢から歓声が上がった。
「ホントだ、似合ってますよ〜太一くん!」
 先ほど物議を醸していたスカート丈は、やはりぴったり膝上だった。きちんと紺色のソックスまで身に着けている。
 どうしてもリボンをつけるのは嫌だと太一が譲らなかったため、ブラウスの第一ボタンが外されてややルーズな着こなしだ。
 おさげ髪のかつらがまた妙に似合っていた。
「だからっ、俺は似合いたくねーんだっつってんだろっ」
 不機嫌な太一は、座った椅子の上であぐらをかく。
「せっかくなんですから、お行儀よく座ってにっこり笑ってみてください、太一さん」
「……二宮、そのいかにも面白がってる顔はやめろ」
 ぎろりと睨み上げても、おさげ髪と大きな眼ではあまり迫力はない。
「リーダー、せっかくだから制服ペアで太一くんの隣に座ってみたら?」
「ん、そっか〜?」
 松本が準備よく太一の隣に並べた椅子に、大野が腰を下ろす。
 大野の力の抜けた笑みを前にして毒気を抜かれ、太一はただはーっとため息を吐くだけに留めた。
「じゃあ、お待ちかね。しげに登場してもらおうか?」
「いよっ!」
「待ってました!」
「茂くーん!」
 ノリの良いかけ声から、ピューッという口笛、拍手まで。
 トークが盛り上がらないという理由で怒られていたという、若かりし頃の嵐5人を憶えている松岡は、「あんなだったヤツらがこんなノリをするようになるなんてなぁ……」なんて、思わず感慨に耽ってしまったりしたのだけれど。
 そんな場合ではなかった。
 ――今まさに、非常〜〜ッに眼に毒な、爆弾が落とされようとしている……。
 松岡は複雑な心境で、弟分5人が、“ある意味”無事で生還することを願った。

 極上の微笑を湛えた山口が、パーテーションの後ろに向かって優雅に手を差し伸べた。

「出番だよ、しげ」

 山口のその笑顔と声を聞いて、バケツ一杯の生クリームに大量のミルクチョコレートがかかっているのを想像せずにはいられなかった、というのは後の櫻井談。
 太一でさえ、そのメーターを振り切る勢いの甘さ加減に鳥肌が立ったとか……。

 山口が差し伸べた手に、パーテーションの陰から伸びてきた掌が重なる。
 カツ、と音を立てたのは、ヒールのある黒いパンプス。
 黒いストッキングに包まれた細い脚が数歩前に進んで、城島の全身が現れた。
 ゆるいウエーブのかかったロングヘアーのかつら。その毛先が隠す胸元には、わずかながらふくらみが……。何か詰め物を施しているに違いなかった。
 何処から持ち出してきたのかという真っ赤な扇子をバサリと広げ、城島が口元を覆う。深緑色のチャイナドレスとの対比が鮮やかだ。
 ふうわりと細められた眼が、妖しく蠱惑的に光る。

 ぽかんと開けた口が塞がらずにいる後輩5人を前にして、城島は気分を良くしたらしかった。
 しゃなりと山口との距離を縮め、扇子で隠した口元を山口の顔へと近づけていく。
 その眼がいやに挑戦的なのがまた魅力だった。
 山口は余裕のある微笑のまま、さも自然な手つきで城島の腰を抱き寄せてその行動に応えてやっている。

(えーッ、えーッ、なにこの展開っ!!?)
(だから言ったでしょうが、「TOKIO兄さんは何か仕込んでる」って!)
(いやこれ、仕込みとかそんなもんじゃない、と思うんだけど)
(うわ、あの距離はヤバイでしょ……ってか、二人の眼が本気なんですけど!?)
(おぉ〜……)

 チラリと視線を流した城島が、山口との最後の距離を詰めようとしたその時――

「どこまで悪ノリする気なんだよッ、この馬鹿二人ぃぃ――ッッ!!」

 案の定、止めに入ったのは、真っ赤な顔をした松岡だった。
 太一は不機嫌&諦めにより椅子に座ったまま我関せず。長瀬は無邪気に笑い転げている。
「あーっはっはっはっ、松岡くん、必死すぎ! 顔真っ赤っ!」
「長瀬ぇっ、転がってる暇があったらお前が止めに入れっ!!」
「止めなくてもいーじゃーん、だってリーダーと山口くんなら絶対寸止めですもん、ねえ?」
 首を傾げて同意を求めた長瀬に、城島は「そりゃそぉや」と肯き返した。
「松岡、いくら僕でも、後輩の教育に悪いようなことはせぇへ……」
「もう200パーセント全開で眼の毒だったよあんたら二人はッ!!」
 涼しい顔した城島の台詞を、松岡は力一杯否定したのだった。

 まだ“ある意味”生還できていない、呆けた後輩5人を前に、太一は深くため息を吐いた。
「おーい、大丈夫かー?」
 椅子から立ち上がり、もぐら叩きよろしく順番に、5つの頭を叩いていく。
「いったぁ……」
「だいじょうぶ……」
「じゃないですねぇ……」
「凄すぎる……」
「さすがと言っていいものか……」
 5人はまだ、目の前の現実を直視できないようである。
「どうだ、満足したか?」
 兄貴然とした大らかな声音で問いかける山口だが、その腕はさきほどからずっと、城島の腰を捕らえて離さない。
 それが直視できない一番の原因とわかっていながら、太一にはもうツッコむ気力はなかった。
 代わりにこっそり呟いた。

「確実に、今日一番満足したのは山口くんだよね……」



 後日、TOKIOメンバー全員にこんなメールが送信されてきた。

 Sub:実験結果発表
 本文:嵐5人で話し合った結果、城島くんの女装は『殿堂入り』に決定しました!
     おめでとうございます!!
     今度は僕たちも気合いを入れて本気で行くので、よろしくお願いします!

     嵐一同


2011.05.12



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