GIRLISH!?


 問題:TOKIOで一番女装が似合うのは誰!?


「……何、この意味不明なフリップは」
「わかんないっす。俺が来たらここに置いてありました」
 不機嫌丸出しの声を出す太一に、長瀬が机を指さして答える。
「何かの番組の企画か?」
「それにしては、フリップに手作り感満載なんだけど」
 山口の疑問に答えた松岡が手にしたフリップに書かれた文字は、達筆の部類だが、どう見ても黒の油性マーカーでの手書きである。
 番組に使われるフリップは、ロゴが入っていたり飾り枠線が入っていたりするが、それもない無地のフリップ。
 どう処理すべきかと、松岡は隣の山口を見遣る。
 城島が打ち合わせに出かけていて楽屋にいない今、一番頼れるのは彼だからだ。
 しかし――
「女装が似合うっつったら、しげだよなぁ」
 山口の口からは、真面目なトーンでそんな台詞が転がり出た。
「……あ、兄ィ……?」
 思わず上擦った声を上げた松岡に、山口は「ん?」と眩しい笑みを向ける。
 俺は至極真っ当な答えを言ったぞ、という顔で。
「何真面目に答えてんの、山口くん……」
 肩を落とした太一に、山口はあっはっは、と大らかに笑った。
「まだ時間あるし、暇だし? ……ま、俺にとっちゃ暇つぶしにもなんねぇ問いだけど」
 俺もリーダーだな……と、松岡は心の中だけで答えを言う。
「はいはいっ! リーダーも似合うけど、俺は太一くんも似合うと……」
 勢い込んで手を上げた長瀬の言葉は、太一の眼にギョロリと睨まれたことで尻すぼみに途切れた。
「な・が・せ〜? 今何つったのかなぁ〜? 俺ちょっとよく聞こえなかったんだけど〜?」
「ごめんなさいっ、太一くん! でもホントに似合うと思って!」
「余計悪いわっ!! そうかそうか、長瀬はそんなに俺にプロレス技をかけてほしいのか〜知らなかったなぁ〜」
「ぎゃー、違いますぅぅ!!」
 長瀬が太一の魔の手から逃れるために椅子から立ち上がったところで、ガチャリと楽屋のドアが開いた。
「何騒いでんの? もうちょい静かにしぃ……」
 少し眉根を寄せてしかめ面をつくった城島の姿を見とめた長瀬は、「リーダーぁぁ!!」と一直線に強固なシェルターへと飛びついていく。
「おわっ、長瀬? 何や、どうしたん」
「リーダー、俺ホントのこと言っただけなのに、太一くんが怒るんですう」
「お前、俺がそういうの言われんの嫌いだって知ってんだろうが!」
「まぁまぁ、太一もちょっと落ち着きぃ。……何があったん、達也」
 城島に視線を向けられた山口は、「これが発端」と例のフリップを差し出した。
「TOKIOで一番女装が似合うのは……?」
「そうです、俺は太一くんが似合うと思うって言ったら怒られたんです」
「……ちなみに、リーダーは誰だと思う?」
 松岡が訊くと、城島はうーん、と少し考えるそぶりをして。
「な…………ん〜、やっぱ、太一?」
「……あなた、長瀬って言おうとしたでしょ」
 すかさずつっこんだ山口に、城島は「あ、バレた」とおどけた。
「えぇーっ、俺は無理っすよー! 何言ってんですかリーダー!」
「……リーダー、あなたの眼には長瀬がどう映ってんの?」
 身長180センチの髭生やした男に向かって女装が似合うはないだろう。
 松岡の冷ややかな目線に、城島はちょっと唇を尖らせる。
「だって……もちろん今のワイルドで格好良い長瀬はえらい男前で、それはそれで長瀬らしいって思てるけど……サラサラの髪で眼がパッチリ大きくて天使みたいやったあの頃の長瀬はさぁ……それこそホンマ女の子みたいでさぁ……」
「しげ、あの頃の長瀬はもう戻って来ないんだよ」
 山口が、城島の半分芝居の入ったいじけに合わせて対応する。
「そうやんな……うん、ちゃんと現実を見るわ」
 涙をぬぐうふりをして、城島の小芝居は一息ついたようだった。
「……で? リーダーは現実を見た結果の答えが俺なわけ?」
 太一の不機嫌一色の声にも動じず、城島はうん、と肯く。
「やって、妥当なとこちゃう? 体型華奢やし、眼も大きいし……」
 小柄という言葉を使わなかったのは、それが太一の逆鱗に触れると知ってのことだ。
「あのねえ。CMで公然と女装してた人に言われたくないんですけど!」
 すると城島は、きょとん、と眼をまるくして小さく首を傾げた。
「え? あれは女装っていうか……茂子と変わらん範囲やから除外やろ?」
「……え?」
「……はぁ?」
 松岡と太一の声が見事に重なった。長瀬も何か納得のいかない表情を浮かべている。
 三人は一斉に、救いを求めるようにして山口を振り返った。
「あの……兄ィ。あのCMでの女装は、俺の記憶違いでなければ新妻っぽい仕様だったと思うんだけど」
「うん、そうだな」
「まぁギャグっぽいつくりだったけど、あれはかなり本格的な女装に見えたよ、俺は」
「だと思うよ、化粧もちゃんとしてたしな、フリルエプロンだったし」
「茂子とは全っ然、違うと思います……!」
「うん、外野から見ればそうなんだけどな、しげの中ではああいうオチ扱いのは、全部一緒らしいんだよ」
「…………」
 山口を除く三人は、無言で城島の方を見遣った。
 仕事となれば、どんなおどけた役でも危険な挑戦でもやってしまう彼のこと、女装に対する認識もかなり緩いのだ。おまけに、自分の容姿に対する意識も低いときている。
「あれは普通に似合ってたよ……全然違和感なかった……」
「そうそう! 俺あれ観たとき、いつの間にCM山口くんだけになっちゃったの!? って思いましたもん」
「自覚なしか……あの人らしいけどさ……」
 下三人がはぁーっと大きなため息を吐く中、城島が声を上げる。
「みんなして、何こそこそしゃべっとんの〜?」
「何でもないよしげ、あのCMの女装は案外似合ってたって話」
 さっと身を翻して傍に寄り添った山口に対し、城島はにこりと笑う。
「そぉかー? 達也が言うてくれるんやったらそうかもなぁ、ありがとぉ」

 相変わらず、山口くん(兄ィ)ばっかりいいとこどりだ……!!

 TOKIOの夫婦コンビに子三人が惨敗を喫したところで、コンコン、とドアをノックする音がした。
「どうぞ?」
「失礼します、おはようございまーす」
 ドアを開けて入ってきたのは、後輩グループ嵐の相葉雅紀、松本潤、櫻井翔の三人だった。
「おはよう。珍しいな……しかも三人?」
 太一が気安く声をかけると、櫻井が「大野と二宮も後で来ますので……」と小さく頭を下げる。
「あの……それっ!」
 相葉が指をさしたのは、件のフリップ。
「答え出ましたかっ!?」
「……ってことは、これ置いといたのお前かぁ!?」
 はい! と悪びれず答えた相葉に対し、松岡はがっくりと肩を落とした。
「何なんだよこれ、嵐の番組の一環?」
「違うんです。確かに番組で似たようなことやってますけど」
 松本は、番組で女装をしたあと楽屋で喋っているときにTOKIOでは誰が似合うんだろうという話になり、たまたま今日同じ場所にいることを知ってTOKIO内での答えを聞こうということになった――とかいつまんで説明した。
「……ってことは何か、お前ら素でこんなことやってんの?」
「はい! 飽くなき探究心で!」
 太一の呆れた様子にもめげず、相葉がにこにこ笑って答えた。
 長瀬が後ろでおもしれぇ〜! と爆笑している。
「櫻井、松本、お前らがストッパーなんじゃないのかよ?」
 松岡に言われて、櫻井は小さく苦笑を漏らした。
「はぁ、本来そうなんですが……」
「本当の相葉ちゃんの暴走を止められるのはニノだけなんです。今回はそのニノが乗っかっちゃったんで」
 TOKIOさんって男っぽいイメージだから、こういうのあんまり聞かないし興味あったので、と松本さえもそんなことを言う。
「はいっ! じゃあ、ひとりずつ答え聞かせてください! 城島くんお願いします!」
「僕は、太一」
「つぎ、山口くん!」
「しげ。あ、城島のことね」
「太一くん!」
「……リーダー」
「松兄!」
「……俺も、リーダー」
「最後に、長瀬くん!」
「うーん……やっぱり、太一くん!」
「城島くん3票、太一くん2票……ってことで! じゃあリーダー、ニノ、どうぞっ!」
「…………は??」
 TOKIO五人が、相葉の振り向いたドアの方向を見ると――そこには、仲良く手を繋いだ大野と二宮の姿があった。
 大野は紺地に白いリボンのセーラー服、二宮は青いチャイナ服を着、二人ともロングヘアーのかつらを被った姿で。
 そして、嫌な予感を感じさせるのは、二人がそれぞれ片手持っている衣装らしきもの――。
「城島くん太一くん、おめでとーございまーす!」
「お二人にはもれなく、こちらの衣装で女装していただきまーす!」
 わざと高めの声を出しておどける大野と、悪戯っ子の小悪魔的笑みを浮かべる二宮が進み出ると、城島と太一は条件反射で一歩下がった。
「ちょっ……二宮、大野、何考えてんだっ!? 番組の企画じゃないんだろ、ただのお遊びで何で女装なんかッ!」
「やだな〜太一くん、お遊びだからこそですよ。楽しいからやってるんです」
 やっぱりね〜、TOKIOの皆さんってこういうのは慣れてないように思ったんですよね〜と、二宮は心の底から嬉しそうにくふくふと笑う。
 さて、こんなときTOKIOの空気を破壊するのはいつだって――
「ねえねえ、それ、どんな衣装なの!?」
 ――そう、やっぱり、自由さが売りの末っ子・長瀬である。
 大野と二宮が持っている女装のための衣装に興味を示した。
 女装したふたりは繋いでいた手を離し、顔を見合わせてから、じゃーん! と持っていた衣装を広げた。
 大野が持っているのは、紺色のブレザーに青系のチェックが入ったプリーツスカート、藍色のリボン。セーラー服と対を成す制服シリーズらしい。
 二宮が持っているのは、彼が着ているのと色違いで、深緑色のチャイナ服。
「あ、カワイイじゃん! リーダー、太一くん、似合いますって!」
 何だか乗り気になってきたらしい長瀬とは正反対に、城島と太一は至って冷めていた。
「いやいや、さすがに三十代半ばから後半の僕らはそれ、キツイんちゃうかなぁ……」
「チャイナ服は百歩、千歩譲ったとしても、制服はキツイだろ……」
 尻込みする二人と、先輩相手なのでやはりそこまで強くは出られない嵐。事態は膠着していた。
 しかし、ぽろりとこぼした大野の一言が決め手だった。
「制服はねー、おれでぴったりくらいだからたぶん、城島くんは背が高いし入んないかも」
 それを聞いて、今まで静観していた山口がすっと動いた。
 城島の左腕を取り、そのまま二宮の傍へ行って深緑色のチャイナ服を受け取る。
「じゃあしげ、あなたはこっちで決まりね」
「は…っ? ちょ、たつっ……、山口! 何、じぶん勝手にっ」
 城島がもがいても、がっちり腕を絡ませられているため逃げられない。
「ちょうどいいじゃん、あなたのイメージーカラー緑だし。……お前も見たいよなぁ? 松岡?」
 いつの間にか傍に寄って来ていた松岡に、城島は縋るような視線を向ける。
 けれど松岡は、顔を赤くしながら決まり悪げに眼を逸らし、山口が掴んでいる反対側の城島の腕を掴んだ。
「……リーダー、ごめん!」
「ま、松岡の裏切りもん……っ!!」
「ちょっと、山口くん!? 俺の意見は全く無視かよっ!?」
 セーラー服を片手に迫ってくる長瀬を押しのけながら太一は喚いたが、山口はどこ吹く風。
「だってそれ、大野でぴったりなんだったら、しげだと丈が短くなりすぎるだろ。太一なら問題ないじゃん」
「…………ッッ!!」
 背丈の違いもそうだが、城島はそもそも平均より脚が長いのだ。
 大野が着てさえ膝上丈のスカートを、城島が着たらどうなるか。そしてそんな状況を山口が許すのか。
 ――想像しなくても答えは明確すぎた。
 けれど。
 だからって。
「俺がこれを着なきゃならねー理由はないッッ!!」
「わ゛〜〜っ! 待って待って太一くんっ、技かけないでーッ!!」


「……何か、大変なことしちゃったかな? もしかして」
「いや、もしかしなくてもそうだろ……」
「まぁまぁ、もしかすると答えが出るかもしれないから待ちましょう」
「その可能性は低いと思うけどな……」
「…………おれ、ちょっと寝ていい?」
「「「「駄目ッ!!」」」」
 どったんばったんの大人気ない大騒ぎを引き起こした後輩五人は楽屋の隅にしゃがみこんで、不安半分、楽しみ半分といった様子でそれを眺めていた。


 実験結果:城島くんか太一くん。
        だけど決着がつくまでもうちょっと時間がかかりそうです。


2010.04.05



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