カ ワ イ イ 人
ライヴの打ち合わせが始まり、メンバーが揃う日も多くなってきた。 時刻は午後1時を回ったところで、昼休憩。 太一は別の仕事場へ向かってしまったが、午後からは4人で引き続き打ち合わせだ。 松岡は席を立ち、普段使っている鞄の他にもう1つ持ってきていたトートバッグから四角い包みを取り出した。 「ホラ、長瀬。弁当作ってきてやったぞ」 ぐるんと振り向いた長瀬は、満面の笑顔を咲かせる。 「わーい、マボメシだー! ありがと、さっすが松岡くん!」 丁寧に包まれたランチクロスをほどき、弁当箱を蓋を開けて歓声を上げた長瀬に、松岡は心配げな視線を向けた。 「お前ちゃんと自炊してるの? 相変わらず外食多いんじゃない? 栄養バランスとか考えてる?」 「外食が多いってのは、否定できないスけど……そりゃ、松岡くんからしたら全然だと思うけど、それなりにやってるよ?」 「あぁ、まぁ……兄ィも村でお前の包丁の扱いが上手くなってたとは言ってたけどさ」 「でしょ〜?」 長瀬はいただきまーす、という声と共に、唐揚げを和えたサラダを口に運ぶ。 「美味いっ! このソース? ドレッシング? すっげー美味い!」 「あぁ、それ、他人に食べさせんの初めてなんだけど、大丈夫だったか?」 「うん、バッチリバッチリ! これなら大皿ぺろっと平らげられちゃうねっ」 松岡は、長瀬の飾らない感想に眼を細めた。 昔から感情表現が素直すぎるほど素直な彼は、いつまでたっても変わらない。だから、でっかい図体になっても何だかんだ言ってカワイイんだなぁ……としみじみ思う。 「でも、まぁ、何かあったら言えよ? メシくらいくらでも作ってやるからさ」 「うん、マボ、頼りにしてま〜す!」 松岡が弁当にがっつく長瀬を眺めていると、廊下に出て行っていた城島と山口が戻ってきた。 すると松岡はそっとトートバッグを引き寄せて、もうひとつ、長瀬のよりはひとまわりほど小さい弁当箱を取り出した。 「アレ、もう1つ、お弁当?」 それを目敏く見つけられ、松岡はしどろもどろに口を開く。 「ああ、これはリーダーの……。1人分も2人分も変わんねぇし……、あの人は料理できるけど、まァたまには、自分以外の料理食うのもいいかなって……」 「うんうん、リーダー喜ぶと思うよ! あ、だけど……」 「何だよ?」 不自然に言葉を切った長瀬の視線の先を追ってみれば、楽譜を覗き込んで談笑している城島と山口の姿があった。 「うん……今リーダー、山口くんと一緒にいるから、ほら」 「あ〜……今日は兄ィの分までねぇんだよなぁ……」 松岡が逡巡するのを見て、長瀬は松岡が、その弁当をどうしても城島に食べてもらいたいのだということを悟った。おそらく、こだわりを持って作ったのだろう。そうでなければ、気前良く山口にも分けているはずだからだ。 「じゃあ俺、山口くんのことこっちに呼ぶから。その間にリーダーに渡せばいいよ、ねっ?」 「え? おい、長瀬っ?」 制止の声も聞かずに、長瀬は山口に向かって無邪気に呼びかけた。 「山口く〜ん! 見てください、マボ弁当! 美味しそうでしょ〜?」 こちらへ眼を向けた山口は、城島にちょっと断るようにしてから長瀬の傍へやってきた。 「お、いいじゃん。それにしても長瀬、メシ持って俺のこと呼ぶなんて、食って下さいと言わんばかりだなぁ〜?」 「イイっすよ、味見しても。マボメシは皆で分け合った方が美味しいですから。あっ、でもちょっとだけっスからね! ちゃんと俺の分残して下さいねっ!?」 「はいはい、わかってるって。おぉ、いつもながら美味そうだなぁ。松岡、貰うぞ?」 「あ、うん、どうぞ。食べて、兄ィ」 山口に勧めてから、松岡は弁当箱を片手に城島のもとへ歩み寄る。 「リーダー、これっ……」 「ん〜?」 「弁当……リーダーの分も作ってきたから、良かったら食べてよ」 「僕がもろてえぇんか?」 「あったりまえでしょ! リーダーに合わせて、長瀬のより小さめの弁当箱に詰めてきたんだからっ」 「そぉか、ありがとうな、松岡〜」 そんな会話を背中で聞きながら肉巻きポテトを摘まんで口に入れた山口が、それを飲み込んでから声を落として長瀬に話しかけてきた。 「――で、長瀬、小芝居に付き合うのはこれくらいでいいのか?」 長瀬はえへへ、と悪戯が見つかった子どものような笑みをこぼした。 「あ〜あ、やっぱり山口くん、気づいてました?」 「気づかないわけないだろ、何年一緒にいると思ってんだ」 ですよね、と肯いて、長瀬はそぼろご飯に手をつける。 「松岡くんってホントリーダー好きですよねぇ。絶対弁当の中身、俺のとは違うと思いますよ。リーダー、こんなに肉食べないですし」 「だろうな」 さっき松岡は城島に対し、弁当箱の大きさのことしか言っていなかったが、長瀬の言っていることは正しいと山口も確信を持って言える。 「何か、微笑ましいっスよね〜」 長瀬は、弁当を食べる城島の横で何やかやと世話を焼く松岡を見て、にこにこと微笑みながら言った。 「……は?」 何だかそれが、長瀬の松岡に対する台詞としては意外な気がして、山口は思わず聞き返す。 すると、端正な顔立ちに似合う笑みと共にこんな答えが返ってきた。 「松岡くんってカワイイなってことです」 ふはっ、とため息のような笑い声を漏らして、山口は呟いた。 「……お前はずいぶん男前になったよ……ホント」 | |
2011.01.30 |
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