web拍手SSログ


Tside-ファンタジーパラレル
 under the rose −誰にも秘密−  / 赤もやさしい色 

Tside-その他パラレル
 それは終わってしまった夢 

Tside-リアル
 faster than falling in love  / ゆるやかな深追い  / 移ろいはやまずに 
 静寂の合間に 

Aside-学生パラレル
  優等生ぶったって  / そっか、夜が降るね 

Aside-ファンタジーパラレル
 還る場所を知らない 

Aside-その他パラレル
 「つれていって。」 

  >>BACK






~波〈wave〉 「つれていって。」   A−


 ただ夢中で山道を登っていた。
 人ひとりがやっと通れるくらいの、まるで獣道。だけど行き慣れた道だ。
 行く手を阻もうとする草をかきわけ進む。ときどき鋭利な葉で皮膚が切れたりするけれど気にしない。
 山の中腹あたりだろうか――正確なところはわからないが――少しだけ開けて広場のようになった場所に出る。
 頂(いただき)へと続く山の斜面。一面の草色。
 その中から、凛とまっすぐに伸びる真白き百合の花。それは、薄暗い山の中に灯る幻燈。
 さぁぁぁ、と柔らかな風が吹き抜ける。
 百合の薫りが充満する。
 そして――すっくりと立つ百合の花に囲まれて、燐光に包まれた少年の姿が現れる。
 艶やかに光を反射する純白の髪、瞳は夕焼けを溶かし込んだ色をしている。絹の光沢を思わせる無地の着物が薄闇に映えて美しい。

 そう、彼は、人間ならざる者。

「サトシくん」
 だけど俺が名前を呼べば、ゆらりと動いた瞳が俺を捉えて微笑みのかたちをつくる。
「翔くん」
 でもそれはいつも何処か淋しげで――今日は少し哀しげでもあった。
 サトシくんはすーっと山の斜面を滑るように下りてくる。
 着物の裾からはきちんと足が二本出ていて草履を履いているけれど、よく見れば彼の足裏は地面から少し浮いていることがわかる。
 俺の目の前で止まった彼の、白く透ける手が伸べられる。
「ほんとに……おれと一緒に、来てくれるの?」
 何処に、なのかは知らなかった。知る必要はなんてないのだ。

 サトシくんが俺に来てほしいと望んだのなら――俺は何処にだって行ける。

 俺の手を掴めずに迷うサトシくんの手を握る。
 わずかの温もりさえないその手を、離れないように強く。

「つれていって、サトシくん」

 サトシくんは、一点の曇りもなく綺麗に笑った。

 俺たちのまわりに燐火が生まれ、2人を取り囲む。青白い光が広がっていく。
 そして、サトシくんのもう片方の手が俺の頬に触れた瞬間――
 2人の姿は現世(うつしよ)から消え去っていた。

 強烈な青白い光も跡形なく消えて、山にはもとの暗闇と静寂があるばかり……。
 ただ百合の花が、微かな風に揺れていた。

--------------------------------------------

 和風なパラレルに憧れて書いてみました。

 2010.09.19
  お題提供:loca








~波〈wave〉 それは終わってしまった夢   T−


 ――夢を、見ていた。

 いつもは呆れるくらい寝起きが悪いのに、今日はいやにすっきりと眼が覚めた。
 長瀬は天井を見つめながら夢の余韻に浸る。

 ――何だか、とても長い夢を見ていた気がする。

 耳の奥でまだかすかに響いているかもしれない、あの音は……ギターの音色、だ。
 つい最近、会社の同僚が趣味で弾いているというアコースティック・ギターを触らせてもらう機会があった長瀬は、すっかりその音色に魅了されてしまった。
 中古だがそこそこ綺麗なアコースティック・ギターを手に入れて、空いた時間さえあればコードの練習をし、簡単な曲を弾いてみたりしている。
 まだまだ覚束ない指使いである。

 ――ああ、だけど夢の中では、これを自由に弾きこなしていた。

 眩しすぎるくらいのスポットライト。
 目の前にはスタンドマイク。


 背後から溢れてくる、音、音、音。


 振り返れば――

 エレキ・ギターを縦に抱くように奏で、ウエーブを描く髪を振り乱すギタリスト。

 足を大きく開き、体全部でリズムを刻むように演奏するベーシスト。

 時折クルクルッと器用にスティックを回して主張する、仕草がキザなドラマー。

 己を取り囲む鍵盤を自在に操り、悪戯っ子のごとく音符で遊ぶキーボディスト。


 ああ、ライトのせいで彼らの顔は見えないけれど。
 きっと満面の笑顔が浮かんでいるのだろうと確信できた。

 長瀬は前に向き直る。
 右手でマイクを引き寄せ、息を吸う。
 この声で、皆の音で、観客を魅了するために――


 ジリリリリ、と午前6時30分を知らせる目覚まし時計が鳴る。
 それを止めて、長瀬はベッドから起き出した。

 もう、夢の名残は何処にもない。

 7時10分に家を出て、電車に乗って、会社へ行く。
 何の変哲もない一日が始まるのだ。

「今日も仕事だ、頑張るぞー」


 ――それは、終わってしまった夢。

--------------------------------------------

 TOKIOじゃない長さんのモノローグ。

 2010.09.19
  お題提供:loca








~波〈wave〉 還る場所を知らない  A−    ファンタジーパラレル


「俺には還る場所なんてないんだよ」

 そう吐き出したカズナリの表情は、ともすれば泣き出しそうにも見えた。
「そっか、じゃあ一緒だね」
 マサキがニコッと笑って言うと、カズナリは露骨に眉を顰める。
「何が一緒だって?」
「ニノの気持ちがわかる、なんてことは言わないけどさ。俺ももう、還る場所ないから。ニノの境遇とちょっと似てるから」
 特殊な能力を持って生まれた子供を受け容れることができない、保守的・排他的な国の風土。
 矢のように突き刺さる偏見の眼差し。
 悲しみに侵されていく家族の表情。
 マサキが話した生い立ちを、カズナリはじっと黙って聞いていた。
「……そう、なんだ」
 黒曜石のごときカズナリの眼が、わずかに揺れる。
「ごめん……アンタもそういう過去背負ってんのに、俺」
「いーの、大丈夫。此処に来て、能力を認めてもらえて……オーちゃんやショウちゃんと出逢って……俺、ちょっと前向きに考えられるようになったんだ」
 やわらかな焦茶色の瞳、だけど宿る光は強く。

「還る場所を自分で見つければいいんだって。まだまだ……時間はかかるかもしれないけど、いつか。きっと見つけられるって……今は思えるようになったんだ」

 マサキの浮かべる無邪気な笑みの裏側には、強さがあるということにカズナリは気がついたのだった。
「……俺も……見つけられるかな」
 風に消えてしまいそうなカズナリの呟きを聞き取ったマサキが、力強く肯いた。

「ニノも見つけられるよ。――俺と一緒に見つけようよ!」

 何処にあるのかもわからない、これから探すカズナリの還るべき場所。
 そこには絶対、マサキの姿が共にあるはずだとカズナリは思った。

--------------------------------------------

 にのあいコンビ。実は、山っこの次に好きな組み合わせです。

 2010.11.21
  お題提供:loca








~波〈wave〉 静寂の合間に   T−


 ヘッドホンを装着した城島の耳に、主旋律を歌う山口の声が聴こえてくる。
 これから城島がハーモニーを乗せるメロディ。
 眼を閉じて、思わず聴き入ってしまう。
(相変わらずえぇ声しとんなぁ、達也)
 長瀬の声とはまた違う魅力を持つ、柔らかでいて力強く響く声。
 自分の声が硬質だと自覚しているから、山口の柔らかい声音が好きなのかもしれない。
 ビブラートのかかった声が止み、一瞬の静寂。
 すっ、とブレスを接ぐ音が聴こえて――サビへ。
 実は、城島はこの山口のブレスが案外好きだったりする。
(またマニアックなこと言うね、とか言われそうやけど)


「ねえ、しげがメインの曲ってもう歌入れ終わってんの?」
 自分の歌入れを終えた山口がスタッフに訊ねた。
 ハモリはまだ入ってませんけど、聴きますか? と言われて、山口はヘッドホンを受け取った。
 城島の、硬質なのに何処か甘い独特の声音が聴こえてくる。
 自分で作った曲さえも、他人に歌ってもらった方がいいという彼だけれど。
(俺はしげの歌声、好きなんだけどなぁ)
 長瀬のように強烈な個性があるわけではない。
 だけど不思議と耳に残る声だと思う。
 特に、伸ばした音が静寂に消えゆくさまが――ギターの弦が空気に残す余韻と似ている、と感じる。
 声の震えに、妙な色気があって。
(音楽のスイッチが入ると色気が出るんだよな、あの人は)


  静寂の合間に、

       想うのは君の声。

--------------------------------------------

 それぞれの声の好きなところは、わたし自身の意見を多大に反映させております……。

 2010.11.21
  お題提供:loca








~波〈wave〉 移ろいはやまずに   T−


 いつもお世話になっている先生に挨拶をして見送り、ロケ車に乗り込もうとした山口は、城島がぼんやりと佇んでいるのに気がついた。
 自分たちが手を貸すことで、少しずつ、少しずつ、自然の姿を取り戻しつつある海岸を見下ろす位置で。
 空の色が移ろうのに合わせて、海の色、波の色も変化している。
 サーフィンをしにいく綺麗な外国の海の景色とは比べようもないけれど、山口は愛着あるこの海を愛おしく思う。
 きっと城島も、同じ気持ちを抱いてこの海を眺めているのだろう。
 隣に寄り添うように立つが、城島の視線は前を向いたまま。だから山口も、一緒に景色を眺めた。
 寄せ来る波をかぶる干潟。波に洗われて砂が描く模様も、常に変化している。
 この海岸だって。
 海底にはまだヘドロが蓄積しているものの、企画が始まった当初には想像もできなかったほど、たくさんの生物たちが棲めるようになってきている。
 すぐ眼に見える変化はなくとも、確実に、変わっているのだ。

 すべてのものは、変わりゆくけれど。
 移ろいながらも、ずっと傍に在るものだって、きっと――。

 夕日が沈んでゆき、空と海の明度も下がる。電灯の光が眼につきはじめた。
 山口は、そっと城島の背中にてのひらを置いた。
「帰ろっか」
「……ん」
 城島は、山口がずっと知っている優しい表情を浮かべて微笑んだ。 

--------------------------------------------

 リセッタが好きすぎて、わたしはお二人が並んでいる画を想像するだけで幸せになれます!

 2011.02.27
  お題提供:loca








~もやさしい色   T−    ファンタジーパラレル


 夕焼けが空を染める時刻。
 僕はシゲル君を探して裏庭に駆け込んだ。
 ――でもそこに人影はなかった。
 図書館にも行ったし、シゲル君の寮の部屋も訪ねた。あと、放課後にシゲル君がいそうな場所を僕はここしか知らない。
 張りつめていた心の糸がぷつりと切れてしまって、僕の眼からぼろぼろと大粒の涙がこぼれだした。
「う、うぇ……っ、シゲル君、何処ぉ……っ」
「――トモヤ?」
 自分を呼ぶ優しい声に、僕は弾かれたように顔を上げた。
 そして裏庭の門の傍に立つシゲル君を見つけて、ふにゃりと情けなく表情を崩れさせた。
「シゲル君っっ!!」
 嬉しさと安堵のあまりすっ飛んで抱きついたら、シゲル君は数歩後ろによろめきながらも僕を抱き止めてくれた。
「大丈夫、大丈夫やで、トモヤ。話は聞いとるよ。教授に頼まれて、お前のこと探しにきたんよ」
 教授、という言葉に思わずびくっとなる。
「ぼ、僕……また、怒られる……?」
 僕は、魔力が上手く操れない出来の悪い生徒だった。
 学園に入学して一年の半分が過ぎたというのに、僕は未だに魔力をきちんと制御できなくて教授に怒られてばかりだ。
 最近ちょっとましになってきていたのに、今日の授業でまた、力を暴発させてしまった。
 新しい呪文や旋律を習うと、だいたいこうなってしまう。
 でもちょっと進歩して、僕は力が暴発しそうになるのを察知できるようになってきていて、今日もそれがわかったから一生懸命止めようとしたんだけど間に合わなかった。そして同じ一年生をひとり怪我させてしまった。
 あんまりひどい怪我じゃなくて、授業の後で医務室に行って謝ったら、その子は大丈夫だよと笑ってくれたけれど。
 でも、教授はきっと怒ってる。いつもそうだったから。
 けれどシゲル君は、眼を細めて首を横に振った。
「大丈夫、怒られへんよ」
「だ、だって、僕、怪我させちゃった……暴発するってわかったのに止められなかった……だから怒られるよぅ」
「怒られへんって。……教授は、褒めてはったよ」
「え……?」
 僕はぽかんとしてシゲル君を見た。
 僕は褒められることなんてしてないのに。
 シゲル君は僕の大好きな優しい笑顔で、頭を撫でてくれる。
「トモヤは、自分の力が暴発するってことにちゃんと気づけたやろ? ……以前は出来ひんかったことが、今日はちゃんと出来た」
「……うん」
「そして、暴発を止めようと努力した。だから被害が少なくて済んだんや。……ちゃんと教授も気づいてはったよ」
「……うん」
「怪我した友達にも、自分から真っ先に謝りに行った。これも以前は出来ひんかったやろ?」
「うん……」
 そうだ、以前は、自分の所為で誰かが怪我をしたことが恐ろしくてただ泣きじゃくっていて、シゲル君に引きずられてやっと怪我をした子のもとへ行ったんだった。
 今日は、何を考えるよりも先に、謝らなきゃと思って躰が動いていた。
「トモヤは少しずつ成長してる。友達を思いやれる優しい子になってる。だから、教授も褒めてくれはったんよ」
「うんっ……」
 またぼろぼろと涙がこぼれてきたけれど、今度は嬉し涙だった。
「トモヤのオーラは、燃え盛る炎みたいに鮮やかな赤や。炎は恐ろしい一面もあるけど、僕らを暖めてくれる、やさしい色なんやで……
 シゲル君の柔らかい調子の声で言われると、本当にそんな気がしてきた。
 僕はもっともっと、シゲル君みたいに、優しくなりたいと思った。

--------------------------------------------

 「爺孫コンビ」というのが茂さんと長さんのコンビ名でポピュラーみたいなのですが、わたしの主観では「母子コンビ」なんです。
 ちなみに達也さんと長さんが「父子コンビ」。

 2010.07.12
 お題提供:brooch








~under the rose ― 誰にも秘密 ―   T−    ファンタジーパラレル


 夕闇が空を支配し、空の色は刻一刻と濃度を増してゆく。
 まるで星屑がこぼれるかのような音に導かれて、俺は屋敷の奥へと入り込んでいった。
 高い石塀に取り付けられた出入り口用のドアから出るとそこは、薔薇の園だ。
 夕闇色に映える白、同化しそうな暗紅色、やわらかく溶け合う桃色、黄色……。
 そして、あちこちから匂い立つ甘い香り。
 人によっては匂いがきつすぎる、というのかもしれないけれど、俺は嫌いじゃなかった。
 薔薇の花は、欠点など挙げようのない美しい強さを備えている。
 ――俺が欲して、けれど手に入れられなかったもの。
 だからこんなにも惹かれるのかもしれない。
 薔薇の園を抜けると、そこには小さな離れの屋敷がある。
 そのテラスに座り込んでいる一人の少年が爪弾く竪琴。――これが、俺を導いた音の主だ。
「シゲル君」
 俺が呼びかけると、彼は顔を上げ、ふわりとやさしく微笑む。
「マサヒロ。……ちょうどよかった、見せたいものがあるんよ」
 シゲル君は竪琴を置いて立ち上がり、俺に手招きをする。
 ついて行った先は、離れの東側にある温室だった。
 中に案内されると、シゲル君は一人で奥へ入って行き、しばらくして鉢植えの薔薇を携えて戻ってきた。
「え……これって……」
 その花の姿かたちは、紛うことなき薔薇である。
 けれどその花弁の色は――秋の空を思わせる、少し紫がかった淡い空色だった。
 薔薇は遺伝子の構成上青色色素を持たないため、青色の薔薇というものは存在し得ないはず――。
「うん……実験の過程でな、出来たみたいなんよ」
 マサヒロは薔薇が好きやから見せたろと思ってな、とシゲル君は言ったけれど、その微笑はどこか淋しげだ。
「……シゲル君……嬉しく、ないの?」
 今まで誰にも為し得なかったものを、この人はまだ成人もしていない年齢で創り上げたと言うのに。
 シゲル君はその翡翠色の眼をわずかに伏せる――それが、答えだった。
「なぁ、マサヒロ……まだ、他の研究者には、この花の存在は知られてないねん」
 シゲル君は――この青い薔薇の存在を、なかったことにするつもりなのだ。
 彼が心に決めたことなら、俺にどうにかできるはずなんてない。
「そっ、か……」
 シゲル君は小さく微笑んで、その鉢植えを持ったまま踵を返す。
「あ……シゲル君!」
 振り返った彼に、俺は訊ねる。
「――その薔薇の名前、は……?」
 青い薔薇の存在を消してしまうとしても。
 それはシゲル君が生み出したものだから。
 ――彼はきっと名前をつけているはずだった。

「……ブルー・ムーン」

 ――決して有り得ないこと。

 シゲル君の背中が奥に消えても、彼の細く震えた声音は、俺の鼓膜に残響していた。

--------------------------------------------

 お題を見てこれは真夜薔薇で書くしかないと思いました。松さんはいつでも何処でも茂さん大好きっ子。

 2010.06.06
 お題提供:brooch








~そっか、夜がるね   A−    学生パラレル


(おおちゃん」
「あれ……相葉ちゃん?」
 ガララッと保健室のドアを開けて顔を覗かせたのは、ニノじゃなくて相葉ちゃんだった。
「ニノが来れなくなったから俺が迎えに来たんだ」
「そうなんだ」
「うん、帰ろ、大ちゃん」
 おれがもそもそとベッドから起き上がっている間にも、相葉ちゃんはおれの何も入ってない鞄を取り上げていた。
「ニノ心配してたからメールしといてあげてね」
「ん」
「あと、明日の朝も迎えに行くから待っててって」
「わかった」
 ニノはおれより二つ年下の、翔くんと共通の幼馴染。
 相葉ちゃんはニノと同い年で、小学校の頃からのニノの親友だ。
 昇降口で靴を履き替えて外に出る。
「翔ちゃんがね」
 相葉ちゃんが口にした名前に、胸がぴくっと引きつる。
「今日はご機嫌ナナメだったよ。……何かあったの?」
 たぶん昨日の放課後のことが原因だろうとは思ったけど、おれは答えなかった。
 相葉ちゃんもそのまま追及してこなかった。
 不意に、相葉ちゃんがきゅっとおれの手を握った。
 思わず彼の顔を見上げると、にこっと笑った相葉ちゃんは子どもみたいに、歩くのに合わせてぶんぶんと繋いだ手を振りはじめる。
 おれもにこっと笑い返して、手が振られるのに任せた。
 さらりと涼しい風が吹き抜ける。
 空は、夕焼け色がだんだんと薄まりはじめて夜の色が染み出してきていた。
「夜が、降ってくる……」
 何となく頭に浮かんだ言葉だった。
 相葉ちゃんは立ち止まり、手を振るのもやめて、おれと一緒に空を仰いだ。

「そっか。……うん、夜が降るね」

 薄明かりの空にやさしく輝く星のような声だった。

--------------------------------------------

 あいさとが寄り添ってるだけでふんわりとやさしい気持ちになれます。

 2010.05.09
 お題提供:brooch








 ~ぶったって  A−    学生パラレル


 今日の放課後も、やっぱり俺は屋上へ続く古びた階段を上っていた。
 本来なら立ち入りが禁止されている場所なのだけれど、変に器用な俺の幼馴染は、ドアにかかっていた錆びかけた錠を針金だか何だかで開けてしまったようだった。
 それ以来屋上は、彼の絶好の居眠り場所、もといサボり場所と化している。
 クリーム色の塗装が剥げた重たいドアは細く開いていた。
 ――それは彼がいる証拠。
 俺は大きな音を立てないように気をつけながら自分がやっと通れるくらいだけドアを押し開き、屋上に出た。
 ふわっ、とあたたかな春風が髪をなぶる。
「智くん?」
 大野智――俺のひとつ年上の幼馴染は、コンクリートの壁にもたれてこっくり、こっくりとうたた寝をしていた。
 明るく染髪された髪が陽射しにきらきらと反射して綺麗だ。
 俺はひとつため息を吐き、智くんの隣にしゃがみこむと、ゆるく肩を揺すった。
「智くん、起きて。もう放課後だよ」
「んん……?」
 しょぼしょぼと眼を瞬かせて俺を見た智くんは、これでもかという無防備な笑顔を浮かべる。
「あ……しょーくん。おはよ」
 それは本当にまるっきり子どもみたいで、年上に見えないどころか、俺はどうにも放っておけない気持ちを掻き立てられてしまうのだ。
「おはよ、じゃないよ。夕方はもう肌寒いくらいなんだから、こんなところで寝てて風邪でも引いたらどうするの」
「ひかねぇよー、おれ、バカだから」
 翔くんとはちがうもん、とへにゃりと笑った智くんは、次の瞬間、ちょっと顔を顰めた。
「……ダメだよ翔くん、いつまでもおれみたいなのに構ってちゃ。翔くんは、新しい生徒会長なんだからさ」
「…………さとし、くん」
 すっ、と俺の手を肩からはずし、智くんは傍に転がっていたぺちゃんこの学生鞄を取り上げて立ち上がる。
「もうここにも、来ない方がいいよ。〈生徒の鑑〉が校則違反はマズイでしょ?」
「……でも、あなたは来るんでしょう?」
 智くんは愁いを帯びた横顔で、そうだね、と答える。
「おれは、ここに来ないと――息苦しくなっちゃうから、ね」

 ごめんね、翔くん。

 風にさらわれてしまいそうなほど微かな声でそう言った智くんは、するりと屋上を出て行ってしまった。
 パタ、パタ、パタ……。
 智くんの足音が聞こえなくなると、俺はガツッ、と拳をコンクリートの壁に叩きつけた。

 どんなにたくさんの大人に褒められたって。
 どんなにたくさんの生徒たちに賞賛の言葉をかけられたって。

 ――俺は、大切な人ひとり守れやしないんだ。


--------------------------------------------

 山っこもときどき夫婦っぽく感じることがありますが、リセッタほど磐石に書いてあげられません……。
 この二人は若干揺らぎがあったほうが好みみたいです。

 2010.04.07
 お題提供:brooch








 ~ゆるやかな追い  T− 


 メンバーの中で、一番距離が近い人は誰ですか? とインタビューで訊かれた。
 ぱっと浮かんだのは長瀬だったので、そう答えておいた。
 共通の話題も多いし、教育係に任命されていた(現在進行形かもしれないけど)手前、キツく言うことも多かったけどその分喜びや楽しさも近くで感じてきたと思う。
 松岡も年下だけど、あいつはしなくていい気配りまでする典型的A型であまり手はかからなかったし、リーダーに心酔してるからリーダーのいうことの方がよく聞いたし。

 だけど、ものの考え方とか捕らえ方は全然違うぞとインタビューが終わってから思い直した。
 距離が近い、ってことは、そういう心理的な部分も考えるべきだと思う。
 そうすると……山口くんは絶対違うし。
 ……リーダー、は……。
 うん……その方向から考えると、リーダーになるのかなぁ……俺に一番近いのは。
 音楽に対する姿勢は似てるよなって山口くんが言ってたな、そういえば。

 うーん、でも――やっぱり、“近い”んじゃないな。
 近くなるところもあるけど、遠いところはやっぱり遠いと思う。
 そもそもあの人のやたら秘密主義なところなんて、俺は絶対に理解できないし。
 山口くんはあの人のそういうところ全部ひっくるめて包み込んで受け容れてるんだから、ちょっと器が大きすぎる。
 リーダーに関して、山口くん以上の理解者なんて生まれ変わっても出てこないに違いない。
 ……そんなところで張り合おうなんて命知らずな精神、常識的な俺は持ち合わせてないよ。

 だけどその近い部分――つまり音楽の部分では、もっともっと近づきたいと思う。
 あの人の中にある色とりどりの語彙、捻くれた思考回路から生み出される言葉遊びを存分に引き出し、あの人を唸らせるようなメロディーをつくりたい。
 いつか、リーダー作詞・俺が作曲という楽曲をTOKIOらしさのひとつにして、当たり前のようにシングルで出したい。

 あの人が何より愛する音楽で、俺はあの人に一番“近く”なりたい。

 きっとリーダーは柔和で食えない笑顔を浮かべながら、のらりくらり俺をかわそうとするのだろうけれど。
 

 ねぇ、あんたにがむしゃら向かっていっても暖簾に腕押しなのはこの15年あまりで理解したからさ。
 あんたの隠れた負けず嫌いを刺激しながら、ゆっくりゆっくり奥深くに入り込んでやる。
 覚悟しとけよ――茂くん。

--------------------------------------------

 付かず離れずの距離感があるからこそ、ちょっと歩み寄った感じのホムクルを見るとたぎる!

 2010.04.07
 お題提供:brooch








 ~faster than falling in love  T− 


 初めて引き合わされたあの日のことを――

 茂くん、あなたは憶えていますか?

 達也、じぶん、憶えてる?


 重たい前髪、分厚い眼鏡の向こう側にあるあなたの眼の色が印象的だった。
 透き通った薄い茶色で――つくりもののガラス球みたいだ、と思った。
 眼が悪いんだろうな、って先入観があったからかもしれないけど、本当に目の前の俺が見えてるんだろうかって思った。
 それくらい、あなたの表情は動かなかったから。
 口を開いてもぼそりと聞き取りにくい低い声で短く話すだけで、何て陰気なヤツなんだと、第一印象は最悪だった。
 だけど、何となく気になって。
 強制されたわけでもないのに一緒に楽器を弾いたり、話しかけたりなんかして。
 少しずつ、少しずつ、あなたの表情や本来のやわらかな訛りがほどけ開いていくのが楽しみでならなくなった。
 そうしてあなたは、俺の一番になったんだ。


 憎たらしいほどにサラサラの髪、長い睫毛の甘い顔立ちに誰をも惹きつけてしまう明るい笑顔。
 達也は僕にないものばっかり持ってるヤツやった。
 運動神経もダンスのセンスも良くて社交的な達也は、ほとんどレッスンに出ない僕でも知っているほど目立ってた。
 そんな達也が、まさかベースが弾ける子だと社長につれてこられるとは思ってへんかった。
 話も合わんやろうし、そもそも次元の違う人間だと思ってたから、深入りはよそうと思った。
 もしかしたら社交辞令で数回は練習につきあってくれるかもしれんけど、絶対ダンスの方へ戻っていくやろうと思ったから。
 それやのに達也は、練習嫌いだと言ってサボりながらも僕がギター弾いてるのを横で聞いててくれたり。
 本当にたまに、僕がレッスン場に顔を出すことがあったら、一番に話しかけてきてくれたり。
 いつのまにか僕も、達也の笑顔に魅了されてたんやろうな。
 達也が、かけがえのない存在になってた。


 最悪だった最初の出逢い。

 距離をとろうと思っていたはずやのに。


 俺たちは――僕たちは――唯一の絆で結ばれた。


 それはきっと、に落ちるより早く。
 運命づけられていた出逢い。

--------------------------------------------

 お二人の出逢いエピソードを正しく知っているわけではないので、大部分が妄想です。

 2010.04.07
 お題提供:brooch