HAPPENING!?




「……ったぁ……」
 TOKIOの楽屋内はにぎやかな話し声で溢れていたが、ふと漏れた城島の声に素早く松岡が反応する。
「どしたの、リーダー」
「ん〜……眼にゴミか何か、入ったみたいで……」
 分厚いレンズの眼鏡からコンタクトレンズに変えようとしていたところだったようである。鏡台の上には外した眼鏡と、コンタクトレンズの容器が置いてあった。
 手の甲で眼を擦る城島に、「そういうのって擦るとよけい駄目だって」と太一が口を挟んだ。長瀬は少し前に楽屋を出て行っていて、荷物だけが置いてある。
「眼、洗ってきたら?」
「うん……」
 そう返事をしつつもすぐには立ち上がらない城島。
 すると山口がすっと腰を浮かせた。
「ちょっと見せて?」
 鏡台の前の椅子に座っている城島の前に立ち、少し前屈みになる。
「どっちの眼?」
「左」
 山口の指が城島の目元を押さえて、更に二人の顔が近づいた。
(近い近いっ、顔近すぎるからっ!!)
 松岡は思わず心の中で叫んだ。
 山口は普段から他人へのスキンシップが多い方なのだが、それにしても自然すぎる接近である。太一はというと、見て見ぬふりを決め込んでいる。
「あー……睫毛がささってんのかな、たぶん」
「ほんまぁ……取れる? 達也」
「あなたね、俺がちまちました細かい作業苦手なの知ってんでしょ?」
 そう言いながらも、山口は城島の頼みを断るつもりはないようである。
「じっとしててよ、しげ」
「ん」
「あぁ、ほら、眼閉じないで」
「だって、しかしかするから……」
(あ〜もうリーダーッ、至近距離でそんな甘えたような声出しちゃってっ! 兄ィも兄ィだよっ、普段から甘い声してるくせに、リーダーひとりに向けたときは無自覚にとびきり甘いんだよッ!)
 松岡は一縷の救いを求めて太一を振り返った。
 さっきまでいじっていた携帯電話は机の上、腕を組んだ太一は松岡の視線に気づくと、諦めの混じった笑顔でゆっくりを首を横に振った。
 そして音を出さず口を動かす。
(いいかげんあきらめろ、松岡)
 松岡はがっくりと首を垂れた。
「あ、もうちょっとで取れそう……しげ、瞬きするなよ?」
「眼ぇ乾いてきたんやけど、達也ぁ〜……」
「もうちょっとだから……」
 そのとき、ガチャッと勢いよく楽屋のドアが開いた。
「太一くん松岡くん、さっき其処でー……」
 長瀬の言葉は、鏡台の前にある城島と山口の姿を眼に留めて不自然に途切れた。
 口をあんぐりと開けて動きを止めてしまった長瀬を、太一も松岡もどうしたことかと見遣る。
「長瀬? どうした……」
「よし、取れた! 取れたよ、しげ」
「あ〜、ありがとぉな、達也……でもめっちゃ眼乾いてしもた……」
 目薬目薬、と背を丸めて鞄の中を探り出す城島と、何事もなかったかのように踵を返し、先程座っていた場所に落ち着く山口。
「……長瀬、どうした? 変な顔で突っ立って」
 ぱち、ぱち、と大仰な瞬きをして、長瀬はまるで幽霊でも見つけたかのような眼で、城島と山口を見比べる。
「えっと……あの、リーダーと山口くん、今何してたんスか……?」
「何って……しげの眼に睫毛がささってたのを取ってたんだよ」
 その答えを聞いた長瀬は、一変して表情を曇りない笑顔に変えた。
「あ、何だぁ、そうだったんスか〜。俺てっきり、リーダーと山口くんがキスしてんのかと思って!」
 その瞬間、太一は思いっきり眉をしかめ、松岡は思わず立ち上がって長瀬の後頭部を叩いていた。
「長瀬っ、何考えてんだお前は〜っ!?」
「松岡くん痛い! だってそう見えたんスから〜!」
「だからって常識で考えろ、長瀬」
「え〜だって、山口くん酔うと誰にでもキスしてるし」
「此処は楽屋だッ、酒も入ってねぇ!!」
 太一と松岡に責められる長瀬を尻目に、張本人の城島は「長瀬の角度からやとそう見えたかもなぁ〜」などと呑気に呟き、山口もケラケラと無邪気に笑う。
「いーねぇこれ、今度何かのドッキリにでも使えんじゃない?」
「リーダー、兄ィ、アンタらねぇぇ〜! 止めてよ絶対、そんな危なっかしいの!!」
「でも、俺も騙されたんだし他の人も騙されてくれるかも?」
「まぁ、それは一理あるよな」
「長瀬ッ、太一くんも乗っからないでお願いだからっ!!」
「まぁまぁ落ち着け松岡、冗談だよ、な?」
「兄ィ、当たり前でしょっそんなの!」
 松岡ははーっと大きなため息を吐いたのだった。

 ――TOKIOの楽屋は、今日もいつもどおりです。

2010.11.03



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