背 中 合 わ せ に 音 楽




 2011年のツアーが決定した。
 待ちに待ったライヴ――俺たちも、そしてきっとファンの皆も。
 TOKIOの根幹にあるのはやっぱり音楽であり、ライヴだから。

 数年先をも見据えたものになるだろうこのツアーの主軸となる曲を、メンバーはもちろん作曲家の方々にも曲を出してもらって、その中から選ぶことになった。
 負けず嫌いの集まった5人だから、こんなことを言われちゃあ闘争心に火がつかないわけがない。
 もちろんこの俺――国分太一も、腕が鳴るってもんだ。

 忙しない年末だけれど、音楽番組などの出演もあり、必然的にメンバーと一緒にいる時間も多くなる。それで刺激されるのか、俺は移動中の新幹線の中でも曲の構想を練ったりしていた。
 メンバーがそろった楽屋内ではいつも話題が尽きることはないのだけれど、誰からともなく「曲、どう?」という台詞が飛び出して曲作りの話題に花が咲くこともしばしばだった。

 全員の曲がどんなのか楽しみで気になるんだけど……俺としては、やっぱりリーダーの曲が特に気になるんだよなぁ……不本意ながら。
 他のメンバーはけっこう、「こんな感じの曲」とか、「ここどうしようかな〜と思ってて」とか口を割ることがあるんだけど、リーダーは自分の作っている曲についてまったく明かしていないのだ。
 共作するとかなら別だけど、今回は曲を出し合って競うわけだから、リーダーの秘密主義がバッチリ機能して「まぁぼちぼちな〜」なんて誤魔化されてしまう。
 ホント、厄介な性格してるよまったく。

 リハーサルが終わって、今はしばしの休憩時間。
 長瀬は楽屋の隅で仮眠中、松岡と山口くんは他の出演者の楽屋に顔を出してくると出て行った。
 俺も長瀬と同じく仮眠でもしようかなぁ、とごそごそしていると、リーダーがギターを抱えヘッドフォンを装着しているのが視界に映った。
 リハーサルで納得いかないところでもあって練習するのだろうかと何とはなしに見ていたら、手もとに何やら紙を広げている。
 確かめるようにギターを爪弾きつつ、紙に書きつける。

 もしかして、今まさに……リーダーのメロディーが生まれてるところ……?

 せっかくいいメロディーが浮かんだのに、手もとに記憶するようなものが何もなくて捕まえられなかった、という経験は少なくない。
 確かリーダーは、夜の方が詞やメロディーが浮かびやすい、というようなことを言っていた気がするけど、こういう時もあるんだろう。

 気になる……めちゃくちゃ気になる、けど!
 そのメロディーを聴いたら何だか負けな気がする。

 だけど曲作り真っ最中なリーダーを眼にすることなんて稀で、その空間に居合わせているのに寝てしまうのは惜しくて。(1人、すっかり夢の中なヤツもいるけど)
 俺は躰を起こすと、膝でリーダーの背中に向かってにじり寄り、背中合わせになって座った。
 その気配を感じたらしいリーダーが身じろいだのを背中で感じる。

「……どうしたん、太一」
「リーダー、今、曲作ってるんでしょ? だから見ないようにしてあげてんじゃん。完成するまで見られたくないでしょ?」
「……まぁ、そやけど。……何で、わざわざ近くに……」
「リーダーがメロディー浮かんだみたいだったから、あやかろうかなって思ってさ」
「だいたい出来てきたとか……言うてへんかった?」
「まぁね、固まったのは1曲あるけど、もっとイイの浮かぶかもしれないし。妥協したくないじゃん」
「……そやな」
「リーダーに負けたくないし。……もちろん、他の皆にもだけど」

 こちらを振り向いていたリーダーにニヤリと笑いかけてやると、リーダーも片方の唇を持ち上げてキザに笑った。

「望むところや」

 リーダーは俺と背中合わせになったまま、曲作りに戻る。
 俺はリーダーから生まれてくるメロディに想いを馳せながら、「リーダーを唸らせるようなメロディーを作ってやるんだ!」と心に闘志を燃やした。



2011.01.05



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