刻は俺の躰に、果てなき螺旋を描き続ける。 いつまでも…… 俺は“彼”を待っている。 遠からず“彼”が戻ってくる予感は、ずいぶん以前から感じている。 鼓動のように、当たり前に俺の躰の中にある。 けれど“彼”の気配は、ある一定の強さのまま変わらない。 ――まだその時ではないのだ。 俺は、心臓を掻き毟りたい衝動を必死に抑えた。 「自分を傷つけたらあかんよ、タツヤ。……僕も、痛くなる……」 “彼”のやさしい声色が、聴こえた気がした。 眼を閉じていると、“彼”と一緒に過ごした時間があとからあとから湧いてくる。 だからなるべく眼を閉じないようにしているけれど、ときどき無性に“彼”を感じたくなって、時を忘れて眼を閉じ続けることがある。 次から次へと浮かんでくる“彼”の表情。“彼”の声。 胸がいっぱいになって、“彼”に触れたくなって手を伸ばすけれど、腕は空を切るばかり。 眼を開けばいつも、涙がこぼれるのだ。 ――俺の傍に“彼”がいないから。 「早く俺に触れさせて。そんで笑ってよ。シゲ――」 願いは朝露のごとく、きらりと弾けて散った。 “彼”の気配が最近、強まっている。 もうすぐだ、もうすぐだ。心がざわついて落ち着かない。 正確な時の刻みとは別に、感情に揺さぶられて一日を長く感じたり短く感じたりする。 異なる流れの時間が同時に躰を通過していくようで、酔ったみたいになる。 だけどそんな些細なことなんてどうでもいい。 ああ、ほら。 やってくる。“彼”がやってくる。 ぐん、と背中を押されるような胸ぐらを掴まれて引っ張られるような感覚。 躰は歓喜一色。 まるで時が止まったように感じる。 ああ、ああ、“彼”の気配がすぐ其処にまで――! 俺は ――光の扉が、開く。 指先に触れたぬくもり。 俺はいっそう手を伸ばして、“彼”の手を取り強く引っ張る。 ずずっ、と“彼”の躰が滑り出してくるこの瞬間だけ、 眼を眩ませながらも俺は、力いっぱい“彼”の手を引く。 パァン、と閃光が弾けると同時に、俺は背中から地面に転がる。 ――その上に覆い被さってくる重みを、夢中で抱き込んだ。 闇に沈む世界。いつもどおりの空。 だけど俺の腕の中には“彼”がいる。 俺の眼に映った“彼”は、綺麗に笑った。 |
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おまたせ。 「待たせてごめんなぁ、タツヤ」 |
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2012.05.07 |
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