What's the Dream ?
俺の目の前に立つその人は、俺のよく知っている笑顔を浮かべて口を開いた。 「達也、誕生日おめでとぉ」 その声音も。立ち姿も。 寸分違わず『しげ』のものでありながら――彼は『しげ』ではなかった。 「偽者に言われたって、嬉しくも何ともねぇよ」 しげの姿をとったモノは、「つまらんわぁ」としげの口調で苦笑する。 「お前が何者でもいいけど、しげの姿すんのはやめてくれない? 不愉快だから」 「そうは言うても、僕はじぶんが一番大切に思ってる人の姿にしかなられへんからなぁ。それは無理な注文やわ」 少しは外見変えられるけど、と言って、彼は自分の顔に手を翳し、撫でるように上から下へと動かした。 すると彼の背がぐんぐんと縮まってゆき、掌の下から現れた容貌は、俺が写真でしか見たことのない、小学生くらいのしげのものだった。 はっきりと違うのは、彼の瞳の色。薄い茶色ではなく、青空を思わせる明るい青色をしていた。 「――で? お前は何者なの」 幼いしげの顔がにっこりと微笑む。 「僕は〈夢〉や」 § 「何なの、この状況……」 俺はそうぼやかずにはいられなかった。 何故なら今、俺は二匹の羊にまとわりつかれているからだ。 羊の世話はしたことがあるから、戸惑いはしないけれど。 「テンとシロ……なわけないよなぁ」 人懐こく頭をすり寄せてくる羊の首を撫でてやると、気持ちよさそうに眼を閉じる。 「その子らの名前、ブルーとシャインて言うねん」 声変わりをしていない高い声。 だけど俺は、その声に聞き覚えがあると確信した。 振り返ると、さっきまで気配の欠片もなかった空間に一人の少年が立っていた。 俺の胸の辺りまでしかない背丈。ふわふわと柔らかそうな黒髪。まんまるの澄んだ瞳は、晴天の空の色。 「リーダーの姿してるけど……違うよね? オマエ、何?」 するとリーダーの姿した子どもはぷっと頬を膨らませた。 「二日続けて同じ人の姿で、あげく両方に正体見破られるなんて……とことんツイてへんわぁ」 「はぁ?」 台詞の意味が掴めなくて訊き返したら、頬を膨らせたまま「何もない」と答え、彼は二匹の羊を自分のもとに呼び寄せた。 「誕生日おめでとぉ、松岡。――今宵は、松岡の“一番見たい夢”を見させてあげる」 § 「おはよぉさん……」 ドアを開けて城島が初めに見たものは、勢いよく同じタイミングでこちらを振り返った山口と松岡の姿だった。 今日はライヴに向けての練習日。 スタジオ内にあるTOKIOの控え室は、これでやっと3人が揃ったばかりである。 「どしたん……二人そろって、びっくりしたような顔して」 「や、何でもないよ。おはよう、しげ」 「うん、ホント気にしないでリーダー」 二人の行動に不自然さを感じないでもなかったが、城島は言われたとおり気にしないことにしてやる。 鞄を下ろし、山口と松岡に向き直って―― 「達也、松岡。誕生日おめでとぉ」 二人は素直な喜びをこぼして微笑む。 「プレゼントはまだ買えてへんけど……ごめんなぁ」 「そんなのいつでもいいよ。ありがとう、しげ」 山口は城島の肩を抱き、ぽんぽんと叩いた。 「これからも一緒に、たくさんの夢を叶えてこうぜ――相棒」 その力強い笑顔に、城島の表情も自然とほころぶ。 「ねえ、リーダー」 松岡が城島の前に一歩、歩み出た。少し気恥ずかしげに、ぶっきらぼうに口を開く。 「夢ってさあ。見せてもらうもんじゃないよね。……自分たちで創り出して、成長させるもんだよね。だから、夢をかなえたら達成感を感じるんだ……」 松岡のキザな言葉を、城島は嬉しそうに肯きながら聞く。 「えぇこと言うなぁ、松岡」 「ま、まぁねっ! だからリーダー、これからもTOKIOとしての夢、いっぱい創ろうよ、ね」 「そうやなぁ」 城島は山口と松岡の顔を交互に見て、目尻の皺をさらに深くした。 「何か……僕が達也と松岡を祝う立場やのに、二人からプレゼントもらったような気分やわ……」 「なーに言ってんのリーダー、俺たちもちゃんと祝ってもらったよ。ね、兄ィ?」 城島の肩を叩きながら松岡が言うと、山口も大きく肯く。 「そうそう、ちゃんと『しげ』にお祝いの言葉言ってもらったしね」 「そう……か?」 山口の言葉の意味がいまいち理解できなかった城島だったが、二人がこの上ない笑顔を浮かべてくれているので、まぁいいかと思ったのだった。 § 貴方の“一番見たい夢”を―― 「お前の与えてくれるような〈夢〉はいらない。 俺の夢は、しげと――そして太一と、松岡と、長瀬と。全員で叶えるものだから」 「俺の“一番見たい夢”――そんなの無いね。 だってそれはこれから、TOKIOの5人で形作っていくんだから」 | |
2011.01.13 |
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